書けたら書く日記

書けたら書きます

小野さんと仕事

小野さんに消しゴムはんこを作って欲しいと依頼された。2000円でよいか、と言われ、はいと答えた。初めての「仕事」だ。頑張らねばならない。

朝8時、小野さんは今ごろトイレを我慢しながらクッキー生地をひっくり返しているだろうか。小野さんは肝っ玉母ちゃんで、高2の双子の娘さんのために朝8時から夜8時まで、トイレを我慢しながら死に物狂いで働いている。フジパンの工場で、パン種の上にメロンパンのクッキー生地を置く仕事をしている。ひたすら手首を酷使して、クッキー生地を置いている。小野さん。素敵な人。

小野さんとの出会いは今から10年ほど前、わたしが20歳になる年だった。TSUTAYAの書籍販売部で朝6時からのバイトをしていた時、わたしより数ヶ月遅れて入ってこられたのが小野さんだった。見た目は色白の美人、アーティスティックなセンスのあるおしゃれなマダム。でも口を開くとブッとんでいた。そのギャップが最高で、わたしたちはすぐに小野さんを好きになった。

小野さんにはご主人と双子の娘さんがいた。実は娘さんたちは試験管ベイビーなのだといつだったか教えてくださった。そうなんですか、と答えたのだったか。よく覚えていない。

小野さんはいつも明るく周りの人を楽しませる人だった。決して周りに甘えない強い人。いつしかわたしは小野さんに憧れるようになった。

そんな小野さんがわたしに仕事をくれた。なんだかとてもおそれおおくて、でもやっぱり嬉しい。素直に頑張ろうと思える。仕事をくれるということは、信頼の証なのだとしみじみ思う。絶対に裏切ってはいけない。期待に応えたい。うおお、これが仕事というものなのか。今までは誰かに雇われて給料をもらって、それが自分にとって当たり前でそこに何の感慨もなかったけれど、直接お客さんからお金をもらうことはこんなにも緊張感があってありがたいことなのか!と驚嘆している。すごいなぁ、重いなぁ、お金。

というわけで、わたしはしゃかりきで小野さんのためにハンコを完成させる。やらねば。やるど。